Boheme camisole(olive) & Loose wide pants(mocha)
沖縄本島のいちばん北に位置する国頭(くにがみ)。
人の手があまり加えられておらず、手つかずの自然がそのまま残るこの場所には、深い森と、どこまでも澄んだ海が広がっている。
そこには自然と寄り添いながら暮らす人々の営みが今も息づいている。
そんな素朴であたたかな集落でひっそりと暮らす島んちゅのセイラ。
「愛がめぐる場所でありたい」そう願って2年前に始めたホリスティックラボは、人々が癒しの時間を求めて集まる憩いの場になっている。
「ハイサイ!」
とラボの奥から素敵な笑顔で迎えてくれた彼女。
ここには彼女から溢れ出す温かいエネルギーとリラックスできる空気感があった。
ショコラティエとしての顔も持つ彼女は、この場所でローチョコレートを手づくりし販売している。その名も Raw Bahalu Chocolate。島のエッセンスや想いがたっぷり込められたチョコレートは、ここにしかない味わいで、多くの人がその風味を求めてやってくる。
そんなかけらを口にしながら、「愛」を軸に生きる彼女に、じっくりとその想いを聞かせてもらった。
Comfy knit top(oat) & Loose wide pants(olive)
『愛と命』
「私が22歳のとき、弟を事故で亡くしたの」
その言葉には、今も静かな痛みがにじんでいた。
突然の別れは、「愛」と「命」という、誰にとっても根源的でありながら答えのないテーマに、真正面から向き合わせる出来事だった。
Comfy knit top(oat) & Loose wide pants(olive)
「弟のことをきっかけに自分の中にあった人生観や死生観がガラッと変わったんだ。なんで私は生かされていて、なんで弟はいってしまったんだろう、って。」
「命って、なんだろう」「愛って、なんだろう」
「家族って」「生きるって」
答えのない問いが、毎朝目覚めるたびに胸を締めつけた。
「それまでの私は、いつも“楽しいこと”を優先して、自由に、ハッピーマインドで生きてた。でも弟を失って、一度その考えをまっさらにしたの。
ただ命があるだけで素晴らしい。呼吸ができるだけでありがたい。そんな風に思えるようになった。そして、弟のぶんまで、今ある命をまっとうしようって決めたの」
すべてをゼロに戻し、自分を見つめなおす時間。それはセイラにとって、何よりも尊く、静かに強さを育てる土台をもたらした。
Comfy knit top(oat) & Loose wide pants(olive)
『自分を知る旅の始まり』
長女であるセイラは、「私まで倒れたら、この家はどうなるんだ」と強く責任を感じ、悲しみのすべてを背中に背負いこんだ。
「弟がいなくなる前は、オーストラリア留学も考えてたの。大学のときに留学で触れた海外の空気が忘れられなくて、また戻るつもりだった。でもそんな気持ちには、もちろんなれなくて。弱っている家族のために島に残り働くことを選んだ。」
気を紛らわすように、ただ働く。”日々を過ごす”ことだけに集中した。
「時間が癒してくれるかも」と信じ、目の前のタスクをひとつずつこなしていった。けれど、心と一緒に、身体も確実にすり減っていた。
朝から晩まで働き、夜はお酒をしっかり飲んで眠る生活。
そんなある日、ふとした不調に襲われた。
風邪だと思って体温を測ると、表示されていたのは34.4℃。何度測っても、違う体温計でも34℃台。もともと低体温気味だったとはいえ、この数字はあまりに危うい。
「さすがにまずい、命の危機かもしれない」そう直感した。
それまで健康や食に“向き合っていたつもり”だったけれど、本当は自分の身体をちゃんと知らなかったその事実に、大きなショックを受けたセイラ。
不調が続き、体質改善のきっかけを探して、20年以上ヨガを学び続けてきたパートナーのシンサクに相談した。そこで返ってきたのは意外な言葉だった。
「断食してみれば?」
予想外の提案だったが、なぜかすぐにその言葉を受け入れた。
「最初は三日間やってみて、そして回数を重ねるうちに五日間、一週間と乗り切っていったんだけど、あまりの調子の良さに感動して。最終的に極端な私は1ヶ月やってしまったの」
「もちろん彼には怒られたよ」と笑う彼女。
「とにかく体調は最高で、ヨガをしていても痩せて身体が軽いし、手からじゅわーっとエネルギーがあふれてくる感覚があったり。デーツがびっくりするくらい甘く感じたり。五感が冴えて、あの時は知らなかった感覚を知っていく日々だったの。」
「人間って食べなくてもいいんだ」という人間のポテンシャルの高さに夢中になったセイラ。
完全にスイッチが入った彼女は、普通に働きながら、毎日3時間のヨガを繰り返し、断食を続け、最終的にビーガンになる。
内側から変わっていく自分をじっくりと感じていった。
「そしたらまあ、言うことを聞かず1ヶ月も断食した先には、大きな代償があって。わたし摂食障害になってしまったの」
Boheme camisole(olive) & Loose wide pants(mocha)
『研ぎ澄まされた感覚の先に』
断食をきっかけに、セイラの身体はますます敏感になっていった。
食べ物や水、肌に触れるものまで純度を求めるようになった。
「オーガニックじゃないとダメ、添加物が入っているとダメ…って、食べられるものがどんどん減っていった」
人からもらった水でさえ、排水管やコップの洗剤まで気になって飲めない。その状態は、やがて摂食障害と呼ばれる心と身体の不調へとつながっていった。
摂食障害とは、食や体型へのこだわりが極端になり、心や体に深く影響する状態。
「食べられない」だけでなく、「食べることが怖い」「許せる食べ物が少なすぎる」といった制限の中で、自分を追い詰めてしまうこともある。
Comfy knit top(oat) & Loose wide pants(olive)
「数ヶ月間そんな状態だったんだけど、家族はもちろんとても心配していて、まだ心の傷が癒えていないお母さんがレストランに連れ出してくれたことがあったんだよね」
「でも、出てきた水やサラダ、何一つ口にできなかったの。手をつけたくてもつけれなかった。大好きで支えたい存在のお母さんとの久しぶりのお食事なのに、その時間を楽しめていない自分がいた」
人とのつながりを何より大切にしてきたセイラにとって、それは大きな気づきだった。
“私が求めている自分じゃない” それは彼女自身が本来の自分に戻されるようなそんな時間だった。そう思った瞬間から、少しずつ改善への道を歩き始めた。
「今振り返ると、弟を亡くしたことで、ああいう“極端な経験”が必要だったのかもしれないと思うんだよね」と語る彼女の横顔は、身体と心を見つめ続けた旅路の重みが滲んでいて美しかった。
長期的な断食をしたい人がいたら必ず専門的な信頼できる先生をつけること。
あの低い体温から始まった旅は、ただ健康を取り戻すためだけのものじゃなく、それは、身体の奥に潜む声と向き合い、自分という存在を深く知るための第一章だったのだ。
『愛と命、そして自分を知る旅の最終章』
10年経っても、「命って、なんだろう」「愛って、なんだろう」という問いの答えは見つからなかった。そんな彼女に、再び向き合わされる出来事が訪れる。
”子宮外妊娠”
話し始めるセイラから、まだフレッシュな涙が頬を流れていた。
Boheme camisole(olive) & Loose wide pants(mocha)
「去年は月に何度かのリトリートを開催したり、各地にチョコレートのポップアップに参加をしたりと、大忙しな毎日を送ってたんだ」
自分への愛より、期待してくれる人たちへ優先的に愛を注いでいった。
目の前の期待に答えるべく、二十日間出血し続けていた自分の身体のサインを後回しにしていた矢先の出来事。子宮以外の別の場所で大きくなっていた命。
「わたしの予想を遥かに超えたところで様々なことが起きていたんだよね」と話す。
手術後、今までのポジティブさは影を潜め、生きることさえ重く感じるようになっていた。
「弟が亡くなって、生きていることの尊さをあれだけ身に染みたのに、もう呼吸を止めたい、そんなことまで思うようになってしまっていたんだ。朝日を見るのも、人に会うのも嫌。さらにあれだけ言っていた、”愛”という言葉にも触れられなかったの。ハートマークも使えず、いつもつけていたハートのモチーフのネックレスさえ外した。自分がわからなくなった時、愛が何かわからなくなってしまったんだ」
そんなセイラを救ったのは、人だった。「私は人の力で救われたんだ」と話す彼女。
家族、パートナー、友人、応援してくれる人たちから届く手紙や贈り物。そのすべてが「愛」の形だった。「もう少しだけ頑張ってみよう」と思える、小さな光を灯してくれた。
「そこから少しずつ回復に向かっていった時に、今まで自分にすごく厳しくしていたことを実感したんだよね。無意識的に自分に制限をかけて追い込んでいた。すごく負担になっていたんだとようやく気づいたの。」
断食の経験から続いていた食に対しても環境に対しても強い意志があったセイラ。2度目の死生観の変化で感じたのは、”愛の循環”だった。
「何事に対しても柔軟な愛を持つことで、もっと自分らしくなれる気がしたの。赤ちゃんはきっと私を助けにきてくれてたのかも」そう言って話を続けた。
「お肉を食べない生活をずっとしていたけど、手術後にはシンサクと初めて焼き鳥屋に行った。小麦粉を摂取してなかったのに、小麦を作る方に出会い、小麦のパンを食べた。
そういうふうに今までの価値観をフラットにしてみたら、自分にも優しくなれて、他人にも優しくなれたの。人間以外の命へも。なんだか暖かい太陽のような愛が私に降り注ぐようになっている気がしたんだ」
全ては愛の循環だった。わたしたちが人であるかぎり、愛は人から生まれ、人へと渡る。そして連鎖しながら歴史を紡ぐ。
「愛は文化であり、命は宝物です。」と最後に話しを締めてくれた。
『愛は文化』
その純粋な彼女の想いは、これからも多くの人や場所に光を届けていくに違いない。
“愛するために生まれてきた”セイラへ、心からの感謝を込めて。ありがとう。
Seira/せいら: ローチョコレートクリエーター,愛の研究家
Instagram
沖縄生まれ沖縄育ち。2015年に「断食」という世界に出逢い、口にするものの大切さを自身の体験を通し感じることになり、2017年rawbahalauchocolate を始動。
繋がり広がる愛とご縁を大切に
アイテムやマーケットプロデュースをしたり
地球の美しさを営みで体現している。
shop: holisticlabokunigami「衣食住の提案空間」