自分らしく生きること。自分の心に正直でいること。
ここ数年、「セルフラブ」という言葉が広まり、自分自身を大切にする生き方が、ひとつの価値観として根づき始めた。
誰かの期待に応えようとする前に、まず自分の気持ちに耳を澄ませる。慣れ親しんだ場所を離れることも、新しい世界に飛び込むことも、自分の心を信じて選んでみる。
その考え方に、そっと背中を押された人もいるはず。
けれど、自分の気持ちに正直でいることと、自分の気持ちを何よりも優先することは、果たして同じことなのだろうか。
自分を大切にしながら、誰かを大切にすること。
その二つは、きっと矛盾するものではないはずだ。
そんなことを考えるきっかけになったのが、アーティスト、アスカとの会話だった。

奈良で育ち、旅を重ね、7年前にワーキングホリデーでオーストラリアへ。
Byron BayやMullumbimbyなど、海や川、緑が身近にある土地で暮らしてきた彼女は、出産のために故郷へ戻り、今、新しく始まった子どもとの日々を過ごしている。
自由に旅をしてきたことも、母になったことも、彼女にとっては地続きの選択。
その間にあった、小さな違和感と心の変化を聞かせてもらった。
自分らしさの原点にある、家族の存在
女の子たちの姿を描き、作品として届けているアスカ。
絵を描くこと、写真を撮ること、旅をすること。彼女の暮らしに散りばめられた好きなものをたどっていくと、家族の日常に行き着く。
両親が出会ったのは、アメリカのボストンだった。
父はマクロビオティックのレストランでシェフとして働き、写真を撮ることが好きな人。母は美術大学で学び、絵も描けば、身の回りのものも作る人。今でも、自分の手でお財布を作っているという。
「私が作っているものを、いつかニューヨークで売りたい!」
幼い頃から、母はそんな夢を口にしていた。
親戚にはアメリカ人のいとこがいて、父がロサンゼルスに単身赴任をしていた頃には、アスカも現地で一年ほど過ごした。海の向こうは、遠くに憧れるだけの場所ではなく、家族の暮らしとつながった場所だった。
「私がオーストラリアにワーホリに行くって両親に話した時も、当たり前のように、送り出してくれたよ笑」
好きなものを見つけたら、近づいてみる。作りたいものがあれば、手を動かしてみる。
そんな姿が、いつも身近にあったのだろう。アーティストとして生きることも、彼女には自然な選択だった。
「今思えば、今私がやっていることって全部、両親の影響が大きかったな。というか、両親にすり込まれてた。笑」
自分の好きなことを見つけ、それを形にして生きていく。
そんな生き方は、誰かに教えられたというよりも、家族の日常の中で自然と育まれてきたものなのだろう。
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自分を大切にすることとは
自然が近く、思い思いの暮らしを楽しむ人々が集まるByron Bay。
オーストラリアでの日々のなかで、アスカが親しんだのが、自分自身を愛する「セルフラブ」という考え方だった。
自分は何が好きなのか。どんな時に心地よく、何に無理をしているのか。
自分の内側に目を向けるために、本もたくさん読んだ。これまで当たり前だと思っていた価値観を見つめ直す時間は、彼女にとっても大切なものだったという。

けれど、セルフラブという言葉が広まるにつれ、少しずつ気になる光景も増えていった。
気分が乗らないからと、直前に約束を取りやめること。誰かを傷つけてしまった時に、相手に向き合うより先に、自分にとって必要な学びだったと受け止めること。
その言葉のそばで、待っていた人や、傷ついた人の気持ちは、どこへ行くのだろう。
本来、自分と向き合うためにあったはずの言葉が、いつの間にか自分の都合を正当化するための言葉になってしまっている。
「なんだか、Me! Me!って自分のことばかりに集中してる人が多くいた気がしたんだ。」
アスカが違和感を覚えたのは、自分を大切にすることそのものではなく、そのために周りが見えなくなってしまうことだった。
自分の心を守るために、断ることが必要な日もある。誰かの期待に、いつも応えられるわけでもない。
それでも、自分の気持ちを伝える時に、相手を思う余地は残しておけるのではないか。
自分にやさしくあることと、人に誠実であること。その二つは、似ているようでまったく違う。
彼女の話を聞きながら、そんな思いが浮かんだ。
「自分のため」から「人のため、世のため」へ
そんな時、アスカは偶然YouTubeで「武士道」という考え方に出会う。
「小さい頃からアトピーがひどくて。それを集中して治そうと思って四毒抜きについて調べてたの。四毒抜きを続けてたら、アトピーも良くなっていった他に、色んなものが解毒された気がして。そしたら自然と良い出会いや、良い環境が手に入っていったの。不思議だよね。」
そんな流れで武士道を伝えるYouTubeに出会ったアスカ。
「でも本当に武士道の考え方にはびっくりしたよ。今まで身近にあったセルフラブとは、まるで正反対の価値観だったからね。」
自分の欲求を満たすことよりも、誠実であることを重んじること。
自分のためだけではなく、人のため、世のために生きること。
他者への敬意や責任を大切にする武士道の思想は、アスカにとって驚きであると同時に、不思議なほどしっくりくるものだったという。
自分はどうしたいのか。
自分は何を手に入れたいのか。
それまで自分自身に向けていた問いが、少しずつ変わっていった。
自分は、何のために生きているのだろう。

そして彼女が見出した一つの答えが、「子孫を残すこと」だった。

「Byron Bayにいる頃は、自分を掘り下げたり、自分の内観にとにかく集中する事を心がけてたの。だから自分の内側について話している本や、それこそ、セルフラブについて書かれてる本をたくさん読んだのね。」
アスカは自分を深く知ろうと、内観する時間を大切にしていた。何を感じ、何を望んでいるのか。その一つひとつと向き合ってきたからこそ、新しく心に触れた考えにも、素直に耳を傾けられたのだろう。
自分を知るために過ごした時間の先で、誰かとどう生きていきたいかを考えるようになった。
そして、その頃に初めて、「母親になりたい」と思ったという。
自分の命の先に、続いていく命があること。まだ出会っていない誰かの未来に、自分の人生がつながっていくこと。
それが、彼女にとって心の動く選択になった。
幸せのかたちは、人の数だけある。アスカにとっては、母になることが、それまで知らなかった生き方へとつながるきっかけとなった。
自分の幸せだけを追い求めた、その先に
そして今、アスカは母になった。
子どもとの暮らしについて話す彼女が、こんな言葉を聞かせてくれた。
「自分のため以外に生きる人生って、こんなにも終わりがなくて幸せなんだ」
好きな場所へ行くこと。欲しかったものを手に入れること。やってみたかったことを、ひとつずつ叶えること。
そんな喜びを知っている彼女が今、見つけたのは、誰かの存在によって広がっていく幸せだった。
自分以外の誰かの成長が、うれしい。その人がこれから見る景色を、一緒に楽しみにしている。
自分の内側を見つめていた時とは、また違うところから、日々に喜びがやってくる。
もちろん、誰かを大切にする毎日は、うれしいことばかりではないだろう。思い通りにいかない日も、自分の時間がほしくなる日もあるはずだ。
それでも、アスカの言葉には、そんな日々のなかで見つけた実感があった。
彼女の話を聞いていると、自分を愛することの意味も、暮らしとともに少しずつ変わっていくのだと思う。
自分の気持ちを知ることから始まり、その気持ちを携えて、誰かと関わっていく。時には立ち止まりながら、大切にしたいものを選び直していく。
旅をしながら、自分の心が動く方へと進んできたアスカ。今、その好奇心の先には、子どもとともに過ごす日々がある。
自分は何が好きなのか。
どんなふうに生きていきたいのか。
自分を愛することは、自分の望みをすべて叶えてあげることだけではない。
時には誰かのために立ち止まり、自分とは違う気持ちに耳を傾けること。
そうして少しずつ、自分の世界を広げていくことなのかもしれない。
自分を大切にすることから始まった旅が、誰かを大切にする生き方へとつながっていく。
自分を愛することの、その先には、自分ひとりでは見つけられなかった幸せが待っているのかもしれない。
アスカの話は、そんな愛のかたちを教えてくれた。

健康アスカ
HP : http://asukaarts.com
イラストレーターとして活動しながら、InstagramやYouTube、noteを通して、引き寄せや日々の暮らしについて発信している。noteの累計販売数は16,000部を超え、代表作は『強制的に引き寄せ体質になる7日ワーク』。
最近では、自身の妊娠・出産の経験をきっかけに、お産をテーマにしたオンラインイベントなども開催している。




