Boheme dress(olive)
どこか本州とは違う空気が流れている島、沖縄。
アート、交流、暮らし、文化、すべてが混ざり合うこの島に惹かれる人は少なくない。「ここには、本来のあるべき姿がちゃんとある」そんな声を、何度も耳にしてきた。そんな場所で生まれ育った陶芸家・サヤナに会いに行った。
車を停め、中へと案内してもらう。秘密基地のような小さい小道をぬけ、扉をくぐり現れた工房。ここで彼女は数々の作品を生み出している。
中に入ると、もわっとまとわりつくような湿気と熱気。額に汗がにじむ中で撮影が始まったが、サヤナはその場の空気をふわりと和らげるような存在感で、暑さすら忘れさせるほど涼やかにそこに立っていた。
「普段はここで作品を作っているの」
彼女の案内で工房の中を進む。夏は蒸し暑く、冬はひんやりと冷えるこの場所。決して快適とは言えないけれど、その不便さも含めて、この空間が彼女の制作の一部になっているのだろう。
Boheme wrap top(oat) & Loose wide pants(oat)
「今はこの場所を使わせてもらっているけど、もう少しで私の新しい工房が近くにできるんだ。今より心地よく作業ができるようになると思うの」
ワクワクした表情で話すサヤナ。その新しい工房では作業スペースとしてだけでなく、いずれはポップアップやワークショップも開催していきたいと話していた。
静かな工房のなかで、彼女がろくろの前に座る。土に指を添えた瞬間、空気がぴたりと張り詰めた。回るろくろの上で、まっさらな土が少しずつ命を宿していく。
その光景は、祈りのようで、呼吸のようで。
視線も、手の動きも、呼吸さえも、すべてが自然と重なり合い、まるで土と会話しているようだった。
「ろくろを回している時間は、メディテーションをしているみたい」
そう言って微笑む横顔には、静けさの奥にある強さがにじんでいる。
ただひたすらに、つくることに向かう時間。
それはきっと、自分と向き合う時間でもある、やさしく深いひととき。
「もともとはバリスタをしてたの。コーヒーを淹れるのが好きで、いろんな作家さんのマグカップを集めるのも大好きだった」
お気に入りのマグで飲む一杯のコーヒーが、何気ない日常に小さな幸せを灯すその感覚が、いつの間にか“自分でも作ってみたい”という想いに変わり、陶芸体験へと足を運ばせた。
「最初の体験は、本当に難しくて。だけど、それが逆にすごく面白くて。どうしたら自分のものにできるんだろうって思って、一から学ぼうって決めたの」
そこから彼女の修行がはじまる。その後、彼女は沖縄・読谷の「やちむんの里」で修行を始めることに。沖縄・読谷にある「やちむんの里」には、多くの陶芸工房が並び、伝統を守る職人たちが日々作品を生み出している。
「ある日、募集していた工房を見つけて。働きながら学べるっていうのが当時の自分には理想的だったんだ」
Boheme wrap top(oat) & Loose wide pants(oat)
朝8時から18時までは工房で働き、そのあとも夜遅くまで修行を重ねる毎日。
販売の手伝いをしながら、土づくり、焼き方、釉薬の扱い方、器のかたちの違いまで、一つひとつ身体で覚えていった。
「毎日、全身どろどろだったよ」と、懐かしそうに笑う彼女。
師匠から学んだのは、土の扱い方だけではなく、焼き方や釉薬の知識、器のかたちの違い、そして沖縄の風土に根差した文化と伝統。すべてが、彼女の今をつくる大切なピースとなっていると話した。
天気や湿度に左右される陶芸は、一見静かな作業に見えて、実はとても体力のいるものだ。
けれど、彼女がろくろに向かう姿は、まるで土と呼吸を合わせるようで、そこには彼女だけのリズムがあった。
「私の作品であるゴブレットは、中にガラスが溶け込んだような模様が特徴なの。これは試行錯誤を重ねて生まれた、陶器と透明感ある素材の組み合わせによって出来たオリジナル作品なんだ。」
その鮮やかな色を見せる色彩が、彼女の作品に命を吹き込んでいる。釉薬のやわらかな質感と澄んだ輝きがひとつの器の中で調和し、まるで自然の風景を閉じ込めたかのような美しさを生み出している。
焼成の度に表情を変え、毎回新しい発見をもたらしてくれると話していた。
「今は釉薬を使ってツルツルの質感の器を作ったりしてるけど、今後はもっと土そのものの素朴さを活かしたシンプルな作品にも挑戦していきたいと思ってるんだ。」
実験を重ねながら、自分の今を作品に映し出すような日々。
最近の作品は、どれもシンプルなものばかりで、“自分自身に還る”を体現しているかのようだった。
「最初の頃と比べると、作品が全然違う。だけど、変わっていくことが楽しい。きっとこれからも、変わっていく気がするの。」
自然と共にある沖縄の環境の中で、自分のペースで、ゆっくりと。時間をかけて、これからも彼女の作品は変わり続けていくのだろう。
彼女が立ち上げたブランド「Brible(ブライブル)」
この名前には “Brighten up your table(食卓を明るく)”という願いが込められている。
「この器が日常にそっと寄り添うような、あるだけでちょっと楽しくなる。そんなふうに感じてもらえたら嬉しい。」
そう語る彼女の表情は、どこまでもやわらかだった。
陶芸は、静かで、深くて、自由な営み。
自然の呼吸と、季節の移ろいと、揺れ動く心とともに、かたちを変えていく。
変わっていくもののなかに、変わらずにそっと残る想いがある。
“食卓が、少しでも明るくなりますように”
そんな小さな祈りを包んだ器たちは、これからも誰かの暮らしにやさしく寄り添っていく。
これからも沖縄の風に包まれながら、サヤナらしい凛とした美しい作品たちが生まれていくのを楽しみにしたいと思う。
Sayana Higa / 陶芸家
沖縄県出身。琉球調理師専門学校を卒後、料理やコーヒーなど“食”にまつわる仕事に携わり経験を積む。その後、料理を彩る器の世界に魅かれ、読谷の陶芸工房「陶慎窯」で修行を重ねる。独立後、自身のブランド「BRIBLE」を立ち上げ、「食卓を鮮やかに(Brighten up your table)」をコンセプトに、日常に寄り添う器づくりを続けている。
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Article and photos by Hinako Kanda