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10月の鎌倉。
潮風に包まれ、香りまでもが柔らかに漂うこの町の一角に、静かに暮らすヨガ講師がいる。
渋木さやか。
育児をしながらヨガを教え、海のそばで日々を重ねるその姿には、自然体の美しさと凛とした芯がある。多くの人が彼女の生き方に憧れを抱くだろう。
その暮らしの中には、seed and soil が大切にしている“自然体であること”がそっと息づいているようだった。
そんな素敵な彼女のお家に招いてもらった。

玄関を開けると、明るい笑顔で迎えてくれた彼女。素敵なお家にワクワクした。
まず目に飛び込んできたのは大きな窓。
スーッと抜ける風に太陽の光が木の床をやさしく照らし、ポカポカとした室内。
少しだけ階段を上がった先には、窓いっぱいに広がる緑と、やわらかな木漏れ日。
また別の空間が広がっていた。
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「ここでヨガをしてるんだよ」
緑が反射する光に包まれながら、彼女は静かに言葉を続けた。
「気持ちいいでしょ。この景色を背景にヨガや瞑想をしたり、オンラインのクラスをしたりしてるの。」
その言葉の通り、風と光と緑が調和するその場所には、心と身体のバランスが整っていくような心地よさがあった。
自然と深呼吸をしたくなるような、そんな空間。
部屋の奥には、彼女が今まで学んできたヨガの本やノートが静かに並び、ヨガと共に長い時間を過ごしてきた彼女の”痕跡”がそこにはあった。
ヨガ講師として歩み始めて20年。
さやかにとってヨガは「暮らしそのもの」になっていた。

『ヨガのはじまり / 転換期』
「仕事を頑張っても評価されなかったり、結婚したくても相手のタイミングじゃなかったり。努力だけではどうにもならないことが、この世界にはあるんだなって思ったの。」
静かに語り出したサヤカは、群馬県出身。
20代半ばまでアパレル業界で働き、東京に住みながら忙しい毎日を送っていた。けれど、仕事でも恋愛でも何かが噛み合わない時期が続いたという。
「20代後半にさしかかって、このままでいいのかなって、自分を見つめ直す時期があって。そのタイミングで、思い切って今まで続けてきた仕事を辞めて、群馬に帰省することにしたんだ。」
自分の努力だけではどうにもならない現実を知った時、
“今まで言い訳してやらなかったことをやってみよう”と思ったのだという。
「一人旅に出てみたり、サーフィンをしてみたり、一人で吉野家に入ってみたり。そんな小さなことでも、今まで出来てなかったことをやってみて、心もだんだん満たされていった。」
小さなメモに書いたTo Doリストの項目が、ひとつ、またひとつと埋まっていくたびに、彼女の中に小さな喜びが芽生えていったという。
そのリストの中に「ヨガ」があった。
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「近くのスポーツクラブにヨガクラスがあると知って、軽い気持ちで参加してみることにしたの。行ってみたらね、To Doリストにしていた中で一番 “続けたい”って思えるものだった。“これ面白いかも”って、直感で感じたんだよね。」
当時、唯一あった養成講座(パワーヨガ)に通い、資格を取得した。そして2006年、ヨガ指導をスタート。
そこからは自分のクラスを持ち、フリーランスとして活動を始めた。
「最初は求人情報を見て、いろんなスポーツクラブやジムに直接契約をしに行ってたよ。
月曜日はこのクラブ、火曜日は別の場所、っていうふうに、週25本くらいレッスンを持ってたこともあったかな笑」と当時を振り返り笑う彼女。
さやかが出会ったヨガは、“今”に還る大事な教えになっていた。
「アパレルをやってた時、次のシーズンの事を常に考えてた生活をしてたから、”今”の季節がよくわからなかったりしてたんだよね。でもヨガはまるっきり違った。
”今”にフォーカスする、今までと全く違う感覚のヨガに、感動したんだよね。」
忘れかけていた、未来でも過去でもない、この瞬間がどれだけ大事かを痛感したという。
「そして講師になって感動したのは、自分が得た知識を自分なりに咀嚼して、それを人に伝えてお仕事になるということ。それって素晴らしいなって思ったの。直接ありがとうって言ってもらえたり、喜んでもらうことができること。誰かの役に立ててるってことを、目の前で受け取れるこの職業って素晴らしいなってね。」
アパレル業からヨガを伝える講師へガラリと変わったさやか。それから当時の彼とはお別れをし、ヨガ講師としてさらに羽ばたいていった。
月日を重ね、ヨガ漬けの毎日に身を委ねていく中で、”湘南移住”が決まり、そして結婚に出産。彼女が望む方向へと人生が次々に動き出していったという。

『シヴァーナンダヨガとの出会い』
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ヨガを教え始めて数年が経った頃、さやかの中に
「もっと自分の芯に響くヨガを知りたい」
という思いが芽生えた。
「日本人特有の感覚だと思うんだけど、カテゴライズすると安心する部分があると思うんだよね。よく、“どの流派ですか?”って聞かれる機会が多くて。でも当時はなんとなく、自分がやってるヨガに自信を持てなくて。」
そう昔の自分を振り返る。
「私もしかしたら、色んなヨガを経験したら、もっと自分に合うヨガがあるのかもしれないと思ったの。」
そこから、自ら色んな種類のヨガを学びに行っては、また別のヨガを受けにを繰り返し、自分にぴったりなヨガのスタイルを探しに出たという。
いくつものスタイルを体験するうちに、それぞれの魅力を感じながらも、たどり着いたのが「シヴァーナンダヨガ」だった。
「シヴァーナンダヨガ」は、インドの伝統的な教えを受け継ぐ、古典的なスタイル。
祈りで始まり祈りで終える。呼吸、ポーズ、瞑想、食、思考、すべての調和を重んじ、エネルギーの流れを何より大切にするヨガだ。古代から続く哲学や歴史的背景に彼女は心を奪われたと話した。
「これだ!!」とやっと見つけたこのヨガを学ぶため、さやかはインドのスワミジという先生がいるタイへすぐに向かった。その後は上級者コースを受けにインドへ。
「クラスは全て英語。英語は勉強していたけど、取りこぼしがあったと思うの。細かい部分から全てを理解しきれてないことが悔しくて、一つ一つ小さなことも取りこぼしの無いよう、毎年英語力をアップデートさせて、同じコースを受けに行った。
ヨガに全てを捧げている先生のお話は素晴らしいからね。授業を重ねていくうちに、少しずつ本質が見えてくるようになったと思う。」
「体験に勝ることはない」とさらに話を続けた。
「今って情報が溢れすぎていて、体験しなくても“知った気”になれるじゃない?でもエネルギーの流れとか、心が震える瞬間って、体験しなきゃ絶対に掴めないもの。本物を見て触れて、初めて本質に辿り着くと思うの。」
「だから直接インドへ行ったのも私にとって、すごくいい経験になったと感じてる。そこでの体験を日々自分の身体を通して感じられるように、学び続けているよ。」と凛とした表情を浮かべ話していた。
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“ヨガがくれる感動”
「お祈りやヨガ中に発する言葉も、馴染みがなかったりするけど、それを初めて聞いた時にすごく胸が熱くなった。感動で心が震えるような感覚。だからこんなヨガからの贈り物をそのまま生徒さんたちに届けられたらなって思ってるよ。」
「受けてよかった」「来てよかった」と思ってもらえる時間を届けたいとそう話す彼女の横顔はどこか眩しく私まで心が熱くなった。

『わたしに還る』
「昔の私はね、いつも“外”に答えがあると思ってたの。」
「素敵な人といれば自分も素敵になれると思ってたし、素敵な場所に連れてってもらえれば何かが変わるんじゃないかとか。“他に負けないように、他にはない何かにならなきゃ”って、浅はかな考えの自分がいたんだよね。
でも違う。自分自身が輝かないと、何も意味をなさないことに気づいた。」
どれだけ外を探しても、本当の安らぎは見つからなかったという。
外にある“何か”を掴もうとしても、心の中に風が吹き抜けるような虚しさが残ることがある。どんなに頑張っても報われないと感じたり、人の目を気にして、いつの間にか自分の本音を見失ってしまったり。そんな時、私たちはつい、外の世界に答えを探そうとしてしまう。
けれど本当の安心は、誰かの言葉や評価の中ではなく、ただ静かに呼吸を整えたその内側に、最初からあったのかもしれない。
当時さやかが振り回されていた感情に寄り添っていたのが、長年続けてきたヨガの存在だった。
「そんな時代を経て感じるのは、ヨガって“自分のエネルギーを回す時間”なんだよね。
体を動かして、呼吸を整えてるだけなのに、落ち込んでいる自分がいれば、自分の中でエネルギーを燃やすことが出来る。そうしてだんだん元気になっていく。
ヨガを通して、自分を俯瞰して見られるようになったし、そうやって外からじゃなくて、全て自分の中で動かすことが出来ることを知ってから、とっても楽になったのを覚えてる。」
“好きな自分でいられる時間”が増えたと話す彼女は柔らかく、過去の自分を受け入れた表情をしていた。
「20年前の私に“今”の私を見せてあげたい。あの頃、外で答えを探してもがいてた自分には自信なんて全くなかったし、何の取り柄もないって思ってた。でも、こんなに続けられるものと出会えるから、“大丈夫だよ”って言ってあげたい。」
彼女は少し間を置いて、穏やかに続けた。
「きっと誰にでも、“自分には特別なものなんてない”って思う時期があると思うの。
でも、自分が“普通”だと思っていることほど、誰かにとっては光のように感じられることがある。だから私は、自分の中の“当たり前”を大切にしていたいんだ。」
「本当にヨガに出会えてよかった」と最後に言葉を添えた。

『日常にある光』
「最近は、家の中にいる時間が好きかな。
今はもう、十分なものが自分の中にある気がしてる。ただ、少し忘れているだけ。
それを取り戻したり、思い出したり、家の中を整えることが、いま一番心地いい。」
「もっと知りたい」、「もっと楽しいことをしたい」
そんな“もっともっと”が、以前より少しずつ静まっていったと話すさやか。
すでにあるものを整えて、巡らせていく作業。
それこそが、今の彼女にとっての豊かさになっている。
「必ずしも奮い立つような感動や、心が震える体験がなくてもいいと思うんだよね。
自分らしくいられる方法や気づきは、日常の中にたくさんあるから。」
そして、サヤカは笑った。
「とにかく家を掃除しよう!」
その笑顔の奥に、静かに整った暮らしの強さが滲んでいた。

プロフィール
渋木さやか / ヨガ講師
ヨガ指導歴20年。鎌倉にて子育てビーチライフ。FujiRockFestival、GREENROOMFestivalなどの大型音楽フェスやヨガイベントのメイン講師としてステージに数多く登壇。笑顔と気さくな人柄が人気のヨガ講師。
2025年より“人生後半のわたし”を育てるためのヨガ、女性の体調を整え不調を改善する「渋木さやかの朝ヨガオンライン」をリリース
instagram @yoga_citta
Article and photos by Hinako Kanda

