平日の湘南、春らしい季節にゆっくりとした時間が流れる鵠沼海岸。潮風に包まれながら、優しさをまとった四人家族がゆっくりと歩いてくる。
「Hi! やっほー! hug」
満開の笑顔で迎えてくれたのは、日本人の両親を持ちながらカリフォルニアで育ったネネ。彼女のそばにいると植物たちが喜ぶ、そんな柔らかい空気が広がる。南カリフォルニアの海辺で、1人の母として、そして地球を愛する女性として、オーガニックな子育てとサーフィン、ヨガを軸に、シンプルでナチュラルな暮らしを楽しんでいる。自然体で生きる彼女に憧れを抱く女性たちは、きっと少なくないはず。
日々、自分のペースで子育てをしながら、オンラインリトリートを企画したり、年に一度は宮崎でリトリートを開催するなど、クリエイティブなエネルギーにあふれている。
そんなネネが日本に帰ってきたこのタイミングで、インタビューの機会をもらった。
「カリフォルニアでの暮らしはすごくシンプルだよ。zenとzionと一緒にビーチに行って、ご飯を作って、お昼寝して。家でゆっくり過ごすことがほとんどかな。」
自分たちらしいスペースがあり、自由で心地いい毎日を送っていると話してくれた。
Organic cotton cardigan(olive)
「子供の頃は地元の学校に通いながら、日本語学校にも通ってたんだよね。当時はアメリカ人の友達ばかりだったし、日本語にはそんなに興味が湧かなかった。でも、今思うと、頑張って通ってよかったなって思う。」
そんな彼女が、7年前に宮崎に滞在した時期がある。約10ヶ月間、日本で暮らす初めての経験だったという。
「その滞在で日本語もぐんと上達したし、日本の文化に触れることができた。自分のルーツに戻ってきた、そんな感覚だったな。」
そう話す彼女は、17歳の時にはイタリアへ留学した経験も持つ。
「ヨーロッパに行ったことで、世界を見るきっかけをもらったんだ。そこから自然に、旅をするようになった。」
旅を重ね、経験を重ねることで、今のネネが形づくられていることに、深く納得した。
「旅といえば、24歳の時に1人でオーストラリアをバンで旅したんだよね。9ヶ月くらいかな。ただサーフィンがしたかったのと、ブッダの教えにすごく惹かれて。少ないもので満たされる暮らしがしたかった。」

「Simple Living シンプルな生活」
人間は欲にあふれている。
便利なものや満足させてくれるものが溢れる時代だからこそ、すでにあるものに満足することのほうが、ずっと難しい。欲が深まれば深まるほど、目の前の大切なものが見えなくなり、手に入れることだけに執着して苦しむようになっていく。
ネネは早くから、シンプルな暮らしの価値に気づいていた。家も、物も、手放し、旅に出た。Organic cotton cardigan(oat) & Asana pants
「当時は、本当に何もいらないって思ってた。ほとんどのものを手放して、大好きなものだけ友達に預けて、バックパックひとつでオーストラリアへ行ったんだ。マインドが本当にヒッピーだった。笑」
そう話すネネは、バン生活を通して、シンプルな暮らしがいかに豊かかを改めて実感したと話してくれた。
「でもね、その感覚は今の方がもっと強いかも。家族ができて、本当に大事なものを知ったから。4人一緒にいれば、もう何もいらない。家族がいれば、いつでも何でも手放せるの。」
物を持たない暮らしは、何も我慢することじゃない。心から大切なものがあれば、余計なものは自然に必要無くなっていく。物やお金に変えられない経験や家族とのつながりが何より貴重なものだということ。
そう語る彼女の言葉が、心に染み渡った。
「二人目の出産」
Organic cotton cardigan(toffee)
「マタニティ生活も、出産も大好きなんだ」と、微笑むネネに、生後7ヶ月になる二人目の出産について話を聞かせてもらった。
「今回の出産で一番感じたのは、自分のエネルギーや力を信じることの大切さだった。人に言われたことに左右されるんじゃなくて、自分の内側の声をしっかり聞いて、選択していくこと。1人目の時からずっと、自分の身体と対話する練習を重ねてきたんだよね。」
“自分の身体との対話”。
日々の忙しさに追われると、つい忘れてしまいがちなこの感覚。でも本当は、体の小さな声に気づけるのは、自分自身だけ。違和感や小さな痛みを見逃してしまうことのないように、ネネの言葉を聞きながら、身体の声をキャッチするセンサーを大切にしていきたいと、あらためて思った。
妊娠中は、毎日少しずつ身体が変化していく特別な時間。その変化を感じながら、お腹の中の小さな命と繋がる神秘的な日々を、ネネは心から楽しんでいたという。
特に、最後の1ヶ月は愛おしさが一層増していたと話してくれた。
「いつもzionがお腹の中から話しかけてきてくれてたんだ。出産が近づいてからは、“もうすぐ出るよ”っていう声がクリアに聞こえてきたの。」
そんなエピソードを、自然体で語るネネ。
「出産の日は、家族でビーチへ行ったり、ちょっとしたお出かけの予定を立ててたんだけど、朝になってzionから“今日出るから、家でゆっくり休んでて”ってメッセージが聞こえて。だから予定を変更して、家で静かに過ごすことにしたの。そしたら、その夜中に、会いにきてくれたんだ。」
“チームワークだね!”
ふとこぼれたその言葉に、胸が温かくなる。生まれる前から、母と子はもう立派なチームなんだ。
「出産は家で、パートナーのケントと二人だけで迎えたよ。ちょうどzenが寝てくれて、40分間で出てきてくれたの。ミッドワイフ(助産師さん)も来てくれる予定だったけど間に合わなくて、彼の手でzionをキャッチしてくれた。三人で過ごしたあの時間は、本当に幸せだったんだ。」
ただ話を聞いているだけなのに、じんわりと胸が熱くなる。
さらに驚いたのは、出産自体も痛みをほとんど感じなかったということ。
「きっと、出産は痛いものだって思い込んでる人が多いよね。でも、もし”出産は気持ちいいものだよ”ってみんなに言われて育ったら、どうだろう? 本当に気持ちいいって感じるかもしれない。すべてはマインドの持ち方次第だと思う。」
当たり前のように信じていた”出産=痛い”というイメージが、ネネの言葉でほどけていく。新しい感覚に、心がスッと軽くなるようだった。出産に対するイメージを自分の中で書き換えることができたら、もっと自由に、もっと心地よく、この大きな変化を迎えられるのかもしれない。ネネの話を聞きながら、そんな希望が湧いてきた。
すべての答えは、自分の中にある。
誰かの正解に頼るのではなく、自分自身の感覚を信じて歩んでいくこと。それは、出産だけじゃなく、生きていくうえでもとても大切なことだと、彼女から受け取れた気がした。

「信じ合うこと」
ネネの話を聞いていると、彼女にとってパートナーの存在がどれほど大きな支えになっているかが伝わってくる。パートナーのケントとは、20歳の頃から一緒にいて今年で10年目になるそう。2人が並んでいる姿には、言葉にしなくても伝わってくる優しさが溢れていて、見ているこちらまでふわりと温かい気持ちになる。そんな穏やかな関係性は、どうやって育まれてきたのだろう。尋ねてみた。
「ケントのことは、本当に心から信じてる。いい関係性を作るにはやっぱり、お互いに信じ合うことが一番大切だと思う。リスペクトしているからこそ、成り立っている関係なんだよね。」まっすぐな言葉に、2人は支え合いながらお互いの存在を心から尊重しているんだと感じた。
ネネの生き方は、とてもシンプルで、まっすぐ。自分自身の声に耳を澄まし、家族を信じ、今を大切に生きている。エネルギーワークを軸にしながら家族と一緒に畑を作り、戻ってこないこの瞬間を、ひとつひとつ抱きしめるように暮らしていきたいと話してくれた。
Here & Now
「まだ妊娠と出産はしたいな!」
そう言ってチャーミングな笑顔を見せたネネの姿が、心に温かく残った。これからも彼女がシェアするクリエイティブや癒しを見届けたいと思う。
Article and photos by Hinako Kanda