Believing in yourself


神奈川県・川崎市で生まれ育った17歳のロングボーダー、ゆらな。海からは少し距離のある場所で育った彼女がサーフィンに出会ったのは、実は6年前のこと。それがつい最近だなんて信じられない。今では、世界中の女性サーファーが憧れるような大きなコンテストに招待され、確かな実力を持つ若きサーファー。

電車に揺られながら海岸へ向かい、ロングボードを片手に心躍らせながら海へと足を運ぶ。制服姿の現役高校生とは思えないほど、大人びた雰囲気と自然ににじみ出る強い信念が彼女の魅力。瞳の奥に映るのは、海の中で感じる自由そのものだろう。

彼女に宿る想いと、その中で抱える葛藤に耳を傾けているうちに、自然とその世界へ引き込まれていった。


「サーフィンの存在すら知らなかった」

波の上で板を自在に操り、数々のコンテストに挑戦し続けるゆらな。その情熱はまるで海のように広がり、サーフィンへの愛がひしひしと伝わってくる。たった6年という短い期間で見せた成長は、サーフィンの難しさを知る者にとって驚くべき進化だと言えるだろう。そんな彼女に、ますます魅了されていく。

「11歳の頃、家庭環境が大きく変わって、家族全員で何か新しいことに挑戦しようって話になったの。その時、お姉ちゃんがsnsで見つけてきたサーフィンを提案してくれて、みんなでサーフスクールに参加することにしたんだ。
最初は”これってどういうスポーツ?海って岸で遊ぶところでしょ?”って思ってた。サーフィンをする人がいるなんて、全く知らなかったんだ。笑」

海に足を踏み入れることさえほとんどなかった彼女が、家族で決めた挑戦をきっかけに、新たな世界への扉を開くこととなった。

「家族で唯一、私だけがサーフィンに夢中になって、SNSで色んなサーファーの研究をしたり、学校がない週末にはお母さんに海に連れて行ってもらって、ひたすら練習してた。
13歳の時に、どうしても乗りたかったシングルフィンの板を手に入れて、14歳で初めて大会に出てみたんだ。」

その大会が、彼女のサーフィンへの情熱を一気に高めた瞬間だったという。

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「初めての試合は、自分のサーフィンをまったく出せないまま終わってしまったの。限られた時間と波の数に焦ってしまったし、周りの気迫に圧倒されて、波よりも選手のことばかり気にしていた自分がいた。心の準備ができていなかったんだと痛感した試合だった。」

そう振り返る彼女は、悔しさを滲ませながらも、同時に『次こそは絶対に勝ちたい』と強く決意したという。

「今思えば、あの経験がサーフィンをただの趣味じゃなくて、本気で向き合うものに変えたきっかけだったのかもしれない。」
そう話してくれたゆらな。

好きなことに対して、さまざまな体験や人との出会いを通じて色が加えられていく。良い感情も、時にはネガティブな感情もすべて受け入れたとき、初めて本当の意味での「好き」が形となるのだと実感した。何かに打ち込む理由は、意外にも「悔しさ」から始まることが多いのかもしれない。その悔しさこそが、次の一歩を踏み出す原動力となるのだろう。



「ゆらなの進む道を照らした、"Queen Classic Surf Festival"」


毎年フランス・ビアリッツで開催される「クイーン・クラシック・サーフ・フェスティバル(QCSF)」は、ロングボードを愛する女性サーファーたちの憧れの舞台。特に注目されるのは、この大会が招待制であること。選ばれたサーファーのみが出場できる、まさに特別なコンテスト。2024年、ついにゆらなにもその招待状が届いた。

QCSFは、一般的な大会とは異なり、性別、性的指向、サーフィンのレベルに関係なく、すべての参加者を歓迎し、個々のアイデンティティの違いを祝福することを目的としている。特に、女性サーフィンの地位向上に対する強いメッセージを発信している大会として、業界でも注目されている。

去年の競技では、4人1組のグループごとに分かれ競い合うというユニークなスタイルだった。ここでは、勝敗だけではなく、互いを尊重し、協力し合う絆が最も重要視されている。それが、QCSFが他の大会と異なる魅力となっている。観客にはサーファーだけでなくさまざまな層が集まり、この舞台でサーフィンを通じて共鳴し、インスパイアされる瞬間を共有しながらイベントを楽しんでいる。

captured by @memoriasdeunindio

QCSFについてゆらなはこう話してくれた。

「この大会を知った時はコンセプトに感動して、こんな素敵な大会があるんだと思った。それから出る事を目標にしてたら、ある時Instagramのメッセージで招待状が届いた。まさかと思ったけど本当で、飛び跳ねて喜んだの。」

その瞬間の喜びが、彼女の表情からひしひしと伝わってくる。

「すぐにお母さんに出場したい気持ちを伝えて、フランスに行くための費用を含め相談したの。そしたら、“学校のテストに合格したら行かせてあげる”って言ってもらえて、そのために必死で勉強したんだ。」

見事テストに合格し、お母さんと一緒にQCSFに挑戦した彼女。会場では、終始音楽が流れ、スケートのセッションや乳がんの啓発活動、ネイルやピースジュエリーのブースが並び、大会というよりはまるでフェスティバルのような雰囲気だったと言う。個性豊かなサーファーたちに囲まれて、彼女は自分自身のあり方や表現したいことを再確認する貴重な時間を過ごしたと語ってくれた。



「ジャッジメント」

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「サーフィンと出会うまで、人にジャッジされる機会がなかったんだけど、サーフィンをやっていく過程で自分のサーフィンを見られる場も増え、否定されることが増えたの。せっかく初めて自分が好きになったものが出来たのに、自由に楽しめないことにだんだんと息苦しさを感じるようになった。」

他人の「正しさ」に振り回される時期があったと話す彼女。
”自分が信じてきたものは間違っているのか?”と自分自身を疑い始めたそう。
サーフィンを始めたころも、同じような生きづらさを感じたことがあったと、心の内を打ち明けてくれた。

「地元が川崎ということもあり、周りにサーフィンしている人がいなかったから、自分のどんどん焼けていく肌や海水で茶色くなっていく髪の毛に、ひとりだけ浮いてるような気がして、みんなとの見た目の差に孤独を感じてしまった。それから他人の目が怖くなって自分を隠すようになってみんなの真似をしようとしてた時期があったの。」

”みんなと同じじゃなきゃいけない”。そんなことを感じてしまう環境があったことを聞いて、胸が痛くなった。当時、中学生だったゆらなにとって、それは辛い過去だったに違いない。


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「でも海にサーフィンをしに行く週末は唯一そんなことも忘れて自分らしくいられた。サーフィンをしている自分が、救いだったんだ。
だからこそQCSFの招待は私の中でとても大きい出来事で、会場で出会った海外の選手がそれぞれのスタイルで自由に表現して、ただサーフィンを愛している姿に、”私は間違っていないんだ。自分のサーフィンを信じてもいいんだ”って思えたんだよね。」

過去の痛みを正直に話してくれた彼女。
彼女が経験したクイーン・クラシック・サーフ・フェスティバルは、そんな傷や違和感から解放されるきっかけになったのだと語ってくれた。

現代社会では、アイデンティティの違いによる偏見や差別がさまざまな場面で問題として取り上げられている。他者からのジャッジメントや偏見、差別、不平等は、実は自分自身が作り出してしまっていることも少なくない。環境や風習が影響を与えることはあっても、決して自分が悪いわけでも、変わっているわけでも、間違っているわけでもない。
自分の身体や心は、常に自分に寄り添い続ける大切なパートナーであり、いつかその存在に深い愛着を感じる日が必ず訪れるはずだ。

アイデンティティの違いは決して対立を生むものではなく、それぞれに新しい、豊かな可能性を与えてくれるもの。そんなことを改めて考えさせてくれるようなインタビューだった。

その後、彼女はサーフィンの魅力についても熱心に語り続けてくれた。




「偽りのないありのままの自分でいられる」

「自然って誰も手を加えていない、偽りのない姿だからこそ美しいと思うんだ。だから、そんな場所でサーフィンをしていると、ありのままの自分でいられる気がする。飾らずに、ただ私は私でいいんだって感じさせてくれるんだよね。」

彼女がすでに自分を輝かせる場所を見つけていることが、自然に伝わってきた。

「サーフィンをする時は、海の中にいるみんなをよく見るの。頭から足先まで、手をつく位置、目線、表情…その全てを見て、純粋に『素敵だな』って思う。みんなそれぞれ違う魅力があって、それを吸収するようにしてるんだ。」

彼女のサーフィンに対する視点がとても興味深く、自分らしくいられる時が一番良いライディングに繋がると言っていたのが印象的だった。
一人のサーファーとして、これからますます輝いていくだろう彼女に、今後の目標を聞いてみた。


「ありのままで輝ける場所を作りたい」

そう率直に答えてくれた彼女。まだどんな形になるのか未定だが、大好きなサーフィンを通して、誰かにとってのアットホームな居場所を作りたいと話してくれた。
QCSFに感銘を受けた一人だからこそ、彼女にはその想いがとても強くあるのだろう。私たちの痛みや経験は、きっと誰かに希望を与え、光を差し込む大きな力になると信じている。
みなさんにとって、自分が輝いている時はどんな時ですか?どんな場所ですか?…

「ママが大好き!」と無邪気な笑顔で話してくれる、17歳のゆらな。来年はいよいよ受験生。大学進学を目指しながら、サーフィンとの両立に奮闘中だ。

勉強に波乗りに、全力で駆け抜ける彼女の姿は、これからどんな未来を描いていくのか、ますます目が離せない。
彼女の夢が現実になるその日を待ちわびたいと思う。

Yurana Mase
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Article and photos by Hinako Kanda

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