オオイワ サエ。岡山県生まれ、東京都育ち。
ビルの立ち並ぶ都会の中で日常を過ごしながらも、ときどき訪れる岡山では、自然やゆるやかな時間の流れに触れてきた。都会と地方、そのどちらにも身を置いてきた彼女には、どこかバランスの取れた感性がある。
今回はそんな彼女のもとを訪ねた。

その日は、しとしとと雨が降る、3月にしては肌寒い午後。彼女の部屋に案内してもらうと、ほのかに畳の香りが漂い、窓の外から吹き込む冷たい風とともに、お香の香りが静かに広がっていく。懐かしさと落ち着きを感じる空間で、彼女のこれまでについて話を聞いた。

Natural incense / made in bali

「明日で23歳になるの。」

そう話す彼女は、高校時代をカナダで過ごし、卒業後に帰国。大学ではイベントマネージメントを専攻し、今はその学びを活かし個人的にイベントの企画・運営を手がけている。特に環境問題に強い関心を持つ彼女は、イベントを通してその想いを伝えながら、ユース世代が環境について考える“きっかけ”の場所を生み出している。

Organic cotton cardigan(olive)

日本と海外の空気が自然に溶け合ったような、どこかニュートラルな佇まいが印象的な彼女。その感性のルーツは、幼少期にあったという。

「小さい頃、祖父のお家がオーストラリアにあって、家族でよく遊びに行ってたの。そして従兄弟がカナダに留学していたこともあって、どこか海外を身近に感じていたの。幼い頃にみていた従兄弟に憧れて、留学する進路を気が付けば自分の中で持つようになっていたと思う。」

高校進路を決めるタイミングでカナダへ行くことを決めた彼女。
向かったのは、バンクーバーから1時間ほど離れたデルタという街。そこでの高校生活は、それまでの東京での暮らしとはまるで異なるものだった。

「自然のなかで見えてきた、自分が大切にしたいもの」


大自然が広がるカナダ。大きな空と果てしない森、澄みきった湖に囲まれた暮らし。
週末はキャンプをしに行き、放課後には湖に飛び込みに行く。そこでの日常は彼女が暮らしていた都会での過ごし方とは大きく異なり、その生活がサエの中に眠っていた“自然が好き”という感覚を呼び覚ましていった。

「現地での暮らしはすごくシンプルなものだった。」

そう振り返る彼女が印象的だったのは、身の回りの人々の意識のあり方だった。身の回りにはペットボトルを使う人はほとんどおらず、マイボトルを持ち歩くのがごく自然なこと。プラスチックを使わない選択が、特別ではなく、日常の中に溶け込んでいた。
環境への配慮が誰かに課された義務ではなく、景色や暮らしの一部として根づいていたことに、心を動かされたという。
美しい景色の中で過ごす時間が、サエの価値観を少しずつ変えていき、いつしかこの自然をもっと大切にしたいと思うようになった。


「学ぶこととは」

カナダでの生活でもうひとつ、サエにとって大きな学びとなったのが、学校での教育スタイルだったと話してくれた。

「学校での教育が面白くて。どの教科でも頭の使い方を学べるような内容だったの。情報がありふれてるこの世の中では、どんな物事に対しても情報をただ受け取るだけじゃなく、その中で批判的思考を大事にすることが授業のベースにあった。」

その時から何事に対してもまず疑問を持つようになったと話すサエ。疑問を持ってこそ、自分の意見が出るんだと初めて知った機会だったそう。

「もともと勉強に対して苦手意識があったんだけどこの考え方を知ってから、次第に「知ることって楽しい」と思えるようになり、今では積極的に自ら学ぶことを惜しまなくなったそうだ。」

この世の中で情報を見極める時にとても大切な学びを教えてくれた。

日本での教育では、マニュアルに沿った授業と、決められた正解を目指すテストが主流。
点数を取ることが目的となり、疑問を抱かずに暗記を繰り返すことが求められているように感じることも多い。それまで学びに対して嫌悪感を持っていたサエにとっては、"考える”スタイルの学びが面白かった。


「帰国後の衝撃」

そんな充実したカナダ生活を終え、帰国後に待っていたのは、いくつもの“違和感”だった。まず目に飛び込んできたのは、日本の街にあふれるプラスチック。袋は自動的に渡され、ペットボトルを持つ人が多いことに驚いた。カナダでの暮らしとのコントラストは、想像以上に大きかったと話す。

「もちろん、日本でも環境に取り組む人たちはたくさんいる。でも、“当たり前”にはなっていないんだよね。」

そして何より印象的だったのが、ある友人との会話だったそう。
スーパーで袋を断り、マイボトルを持ち歩く彼女に、友人が言った。

『サエって、環境とかに意識高い系だよね。』

「それが悪い意味じゃないのはわかってた。でも、その言葉に“壁”を感じちゃったんだ。」

カナダでは自然と交わされていた環境の話が、日本では“特別な人”のものとして見られる。その感覚の違いに触れた瞬間、サエの中に、「変えていかなきゃいけない」という強い想いが生まれた。

Organic cotton cardigan(olive) & Organic cotton basic bra(olive)


「Youth Rockとの出会い」

そんな中、帰国直前に参加したのが、カナダで開催された気候変動マーチ。街を埋め尽くす人々が声を上げ、環境の未来について行動していたその光景に、サエは強く心を動かされた。

「私にとってそれが初めてプロテストに参加した経験だったんだけど、日本で同じような運動を見た時に社会から感じる目が少し違うなあって思ったの。それと同時に環境問題に意見を持って活動すること自体、難しいんだと感じたんだ。」

そんな時、snsで環境問題に取り組む同世代の子はいないかと探していたところ、見つけた『Youth Rock』というある二人の女の子たちが立ち上げた、様々な社会問題に取り組むアクティブなクルー。彼女がふつふつと心に感じていた違和感や変えていきたいという強い思いを晴らしてくれるそんな機会だと心が昂った。

「もう、これだ!って思って。すぐに連絡したら^ メンバーとして受け入れてくれて。そこから一緒に活動することになったんだ。」

サエにとって、Youth Rockは“言葉だけじゃない行動”を実践できる場所だった。同じ想いを持つ仲間とともに過ごす時間の中で、これまで感じてきた違和感や孤独が、少しずつ“力”へと変わっていった。


やがて、彼女は自らの手でその"空間"をつくり始める。

「想いが詰まった 『eternal fizz』」

「今はメンバーそれぞれ社会人になったり活動のかたちは少しずつ変わってきたけど、最近は自分でイベントを開くようになって『エターナルフィズ』というイベントを始めたんだ。」

eternal fizz(エターナルフィズ)とは直訳すると永遠の泡。今この瞬間をバブルに例えて、その縁の中で終わりも始まりもない、時間軸が無い”今”が連続している。泡のように儚くも美しい“今”という瞬間が、重なり合っていくイメージから名づけられたそう。

このコンセプトに出会ったのは、彼女が大学3年生の年、ニューヨークに1年、交換留学へ行った頃。自分と深く向き合う時間のなかで、「時間軸」という概念に疑問を抱いたことがきっかけだった。

「その時に出会った、時間軸についての本を読んだ時に、今までの”時間”に対しての概念がガラッと変わったんだ。」

その本に書いてあった、”もし時間軸がなければ”というお話。
今私たちは決まった時間軸の中で生きている。そもそも時間というのは、私たち人間が決めた物差しであってそこに縛られる必要があるのか。
例えば、世間的に言われているお昼という時間にランチを食べること。今やその時間になると勝手にお腹が空くし、食べなきゃという気持ちにもさせられる。
言いたいのはそこに囚われているのが悪ということではなく、そこに対して”意志”を持ってその行動をしているのかどうか。これもサエが教えてくれた”自分の頭で考える力”とどこかで繋がっているような話だった。
時間が来たから動くという受動的な考え方は、誰かが作った常識に振り回されることになるかもしれない。


「軸があるって思って生きてきたけど、時間軸がある事に対して疑問に持つようになったら少し楽になったような気がしたんだ。
未来のために何かやりたいって思って頑張ったりしてたけど、今の瞬間を楽しめきれてない事を痛感したの。今のこの瞬間が1番大事だってことを心から理解したんだよね。」

「そんな気持ちを込めてカタチにしている『エターナルフィズ』なんだ。」

装飾や音楽、集まる人々がつくりだす空気。そこに流れるのは、時間にとらわれない自由さと、“今を楽しむ”というまっすぐな感覚。サエがシェアするイベントは、そんな『今』という尊い時間を楽しんで過ごせるような空間を提供している。


SAE
15歳の時にカナダ・バンクーバー島のビクトリアへ単身留学。カナダの現地高校を卒業した後、上智大学国際教養学部に入学。コロナ禍の2020年4月に情報発信団体『You(th) Rock!!』を6人で設立。大学3年次には、アメリカ・ニューヨークのPace大学に1年交換留学し、帰国後に新たなイベントコミュニティ『eternal fizz』を設立。現在、平日は会社員として働きながら、週末はefのイベント企画や趣味を楽しむ。
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Article and photos by Hinako Kanda

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